隈研吾のキャリアの転回点となった高知へ。『隈研吾展 新しい公共性をつく...

隈研吾のキャリアの転回点となった高知へ。『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』

隈研吾のキャリアの転回点となった高知へ。『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』

隈研吾が高知県梼原町で設計した建築「雲の上の図書館 / YURURIゆすはら」2018年 ©Kawasumi・Kobayashi Kenji Photograph Office

高知県立美術館で11月3日から始まった隈研吾展「新しい公共性をつくるためのネコの5原則」を見てきた。建築家の隈研吾は、ご存知のとおり、東京オリンピックのメイン会場となる新国立競技場の設計者である。この展覧会は当初、五輪開催の時期に合わせて、東京の国立近代美術館で開催し、その後、高知と長崎に巡回する予定だった。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行によって東京展が延期になり、高知展からスタートすることになったものである。

隈研吾のキャリアの転回点となった高知へ。『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』

瀧本幹也「梼原のインスタレーションのためのプラン」2020年 ©Mikiya Takimoto

なぜ高知で?と思われるかもしれない。ここは隈研吾のキャリアにおいて重要な転回点となった場所である。1990年代のバブル崩壊で仕事がなかった隈は、知り合いから声をかけられ、古い木造の芝居小屋を保存する運動にかかわる。その場所が、高知県の山間部にある森林の町、梼原(ゆすはら)だったのだ。以降、隈は地方の仕事を多く手がけるようになり、木を用いた作品が増えていく。そして梼原町でも1994年竣工の「雲の上のホテル」を皮切りに、町役場や図書館など6件の建築を設計した。それらはこの展覧会でも一つの部屋をまるまる使って展示している。縦長のマルチスクリーンを用いた瀧本幹也による映像が素晴らしい。モノクロの硬い映像で、梼原の空気感を伝える。

隈研吾のキャリアの転回点となった高知へ。『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』

展示室前に置かれた木組みのインスタレーション。

他の部屋でも映像をフィーチャーした斬新な展示を行う。「TOYAMAキラリ」の展示では、ゴーグルを使った360度VRの映像で内部空間を仮想体験できる。また、「東京計画2020」というインスタレーションでは、ネコの視線で都市をとらえた映像が流される。茂みを好み、隙間を抜けて、ザラザラした地面の上を自由に遊動するネコの行動スタイルに、隈は憧憬の念を抱く。あげく、ネコにとって良い都市がヒトにとっても良い都市であるはずだ、との確信にいたる。タイトルは丹下健三が60年前に提示した未来都市のプロジェクトを意識したものだが、海の上に格子状の巨大構築物を延ばしていくそれとは対極的な、ネコのための都市。それこそが、隈が示した未来都市のビジョンなのであった。

『隈研吾展 新しい公共性をつくるためのネコの5原則』

開催期間:2020年11月03日(火)~2021年01月03日(日)
開催場所:高知県立美術館
高知県高知市高須353-2
開館時間:9時~17時 ※入館は閉館30分前まで
休館日:12月27日(日)~1月1日(金)
入場料:¥1300(税込) ※ウェブにて予約が必要
www.kutv.co.jp/kumakengoten